一昨日掲載した英文に対する和訳全文を掲載します。
題名は以下のとおり。
全米1の書店チェーン、バーンズ&ノーブルの電子書籍事業は失敗に終わりました。アマゾンやアップルに勝てませんでした。しかし、バーンズ&ノーブルが潰れるわけではありません。スロイッキー氏は紙の本はなくならないだろうと予測しています。なおかつ、アマゾンが書店を作るのは、他社がアマゾンのような事業に参入するのと同様に難しく、米で唯一残った大手書店チェーンのB&Nは着実に利益を残せれると予測されます。
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バーンズ・アンド・ノーブル(以下B&Nと表記)は2週間前に、Nook事業で昨年5億ドルほどの損失が出たことを発表しました。責任を取ってCEOが辞任し、Nook事業が失敗であったということが明確になりました。つまるところ、Nook事業の成功は、如何にしてアップルやアマゾンにe-bookという分野で打ち勝てるかに掛かっていました。Nookが失敗したことで、B&Nのように広い倉庫のような空間に昔ながらに紙でできた本を積んでおく書店を経営することが時代遅れの事業に見えるかもしれません。いったい誰が好き好んでわざわざ本屋に行って本を買わなきゃいけないんだ?と疑問を持つ方も多いでしょう。
Nookの訃報がいきなり飛び込んできてビックリしましたが、意図せず明確になったことがあります。B&Nの店舗での小売事業は変わらず好調であるということです。昨秋以降では売上額は減っていますが利益は逆に増えているのです。B&Nの店舗事業は、すぐれた在庫管理手法により、非常に効率的になっています。売上が減っても利益が増やせていて、Nook以外の事業は儲かっているのです。書店チェーン事業を始めるというのは、実はなかなかハードルの高いことです。アマゾンでも出来ないでしょう。2011年に大手書店チェーンBordersが倒産してB&Nが競うような大型書店チェーンは無くなりました。米投資法人のマキシムグループ(日本で投資詐欺をしたマキシムグループとは無関係)の主席アナリストのジョン・ティンカーはこの状況を、「B&Nは競合他社が勝手に淘汰されたことによってシェアをのばした」と表現していました。B&Nは生き残るために経費の削減に地道に取り組んでいました。キャッシュフローを棄損する長期のリースを避けて短くしていました。そのことにより店舗移転や縮小や閉鎖を柔軟に行うことが可能でした。また、書店があるだけで客数が増えますから、近隣の店舗にもメリットをもたらします。ですから、B&Nは不動産屋やデベロッパーに対してそれなりの交渉力を持っています。また、店舗数が減ったとはいえ700もあり(他にも大学内で686ヶ所営業をしています)、出版業界に対して大きな影響力を持っています。米Codex Groupの最近の調査で明らかになったのは、新しい本を探す方法として本屋でブラブラするというのは未だに最も一般的であるということです。それに比べたら、ネットで探すとかソーシャルメディアで探すというのは、そんなに一般的な方法では無いのです。ですから、出版業界はB&Nが生き残ることを願っています。
それでも、B&Nにはまだまだ改善の余地がたくあんあります。そのサイトをもっとさっぱりしたものにするべきですし、店舗は整然としていないこともあります。特に書籍以外の物販は場所も不足していましたし雑然としていました。売込みすべき商品が十分に顧客に訴求できていない状況でした。まあ、しかし、Nook事業が失敗に終わったので、Nookを展示していた広大な場所が空くことになるので、それも改善されるでしょう。Nookの失敗を機に書店での品揃えなどに注力し店舗力を強化すべきです。世界最大の出版社ランダム・ハウスの前CEOピーター・オルソンは、紙の本とe-bookを抱き合わせて販売し、その際には割引してはどうかと提案しています。ネットと店舗を融合し、顧客ごとにお勧め商品を提案したりディスカウントをするというサービスは差別化につながります。それで成功したモデルが実際に存在しています。アップル・ストアです。しかし、B&Nはもっと基本的なところに注力しないといけないかもしれません。現在、独立系の書店は、出版者とも顧客とも密接につながっていることが大きな利点となり繁栄しています。ペンシルバニア大ウォートン校のダニエル・ラフ教授が2大書店チェーン(バーンズとB&N)について詳細な研究をしましたが、次のことを指摘しています。顧客が探している本を提供するだけでなく、顧客が売場でぶらぶらしていて不意に面白い本を発見することが出来る、そういったことが書店の魅力であることは昔と変わっていないということです。まさにそのとおりです。B&Nは小手先の改革をするのではなく、「魅力的な本屋」になるために真剣な根本からの取り組みをしなければなりません。
もちろん、多くの人は地道に書店営業に注力することを良い施策だとは思わないでしょう。そう考える人にとって、紙の本は時代遅れのものでしかありませんし、書籍販売業界は音楽ソフト販売と同じ道を辿ると予想しているでしょう。音楽ソフトにおいてはダウンロードが増えて、あっという間にCDの販売は駆逐されました。確かに、2009年、2010年、2011年はe-bookの販売額は毎年倍以上に増えています。しかし、2012年は44%の伸びにとどまっています。また、書籍販売に占めるe-bookの割合は2012年で20%です。この数値から明らかなのは、紙の本は今すぐにでもe-bookに取って代わられてしまうだろうという予測は外れであったということです。Codex Groupによる最近の調査によれば、e-bookを利用している人の97%は紙の本も購入しているという事です。紙の本を買わないのは僅か3%だけなのです。
e-bookには明確な長所が幾つかあります(タブレットに入れれば膨大な数の本を持ち歩くことが出来ます)が、買う側からすれば一番魅力的なのは紙の本より安価だという点です。そういった魅力があるにも関わらず、あらゆる年代の人が堅い内容の書物を購入する際は紙の本を好みます(
これもCodex Groupの調査で判明)。e-bookが優勢なのは小説とか軽い内容の書物においてです。もっとe-bookが普及すればそうした現象はなくなり、分野に関わらず何でもe-bookでという時代が来るのかもしれません。しかし、タブレットのスクリーンで本を読むことと、紙の本を読むことは全く別の行為なのです。今年実施された研究で明らかになったのは、タブレットで本を読む時は、紙の時よりもじっくり読まずに読み飛ばすことが多いのです。小さな差かもしれませんが、この差こそが紙の本の捨てがたい魅力なのです。実際、ハードカバーの本の販売額は昨年1億ドルも増えています。
多くの研究で明らかになっていることですが、紙の本を手でめくるということに喜びを感じている人は少なくありません。本の触感や見栄えなどが、本を読む人にとっては案外大きな影響を持っています。人々がタブレットのような新しいものに嫌悪を抱いているわけじゃありませんし、紙の本にノスタルジックな感情を抱いているわけでもありません。事実として、紙の本は何と比べても負けないほど素晴らしいものなのです。優れた技術の結晶と言えます。これほど読みやすく、携帯に便利で、長持ちし、安価なものは他にはありません。音楽配信の世界で目にしたような販売チャネルがガラッと変わったのと異なり、e-bookの成長は緩やかなものとなるでしょう。紙の本が駆逐されるというよりは、共存するような形になるでしょう。紙の本はちっとも時代遅れの代物ではありません。B&Nは、そのことを正しく認識すべきです。
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